そもそも「ワークスタイル変革」とは何なのか?
いまや当たり前に聞かれる「ワークスタイル変革(働き方改革)」という言葉ですが、きちんと理解できているでしょうか?この言葉が広く普及する大きなきっかけが、2016年に政府が「働き方改革」を政策に掲げたこと。背景にあるのが、少子高齢化による労働人口の減少という問題です。労働力不足を解消する方法として、従来の働き方を見直し、女性の活躍や労働生産性向上を目指す「働き方改革」が提唱されたのです。
ワークスタイル変革は在宅勤務などとセットで語られることが多く、限られた人の話にも思われがちですが、決してそうではありません。生産性を高め、多様な働き方が可能にすることで、職場全体の働きやすさを目指すもの。また、より働きやすい職場・制度を整えることが、企業の魅力となり、より高度な人材の確保につながるなどのメリットがあるとされています。
IT導入は手段にすぎない。ワークスタイル変革の本来の目的とは
ワークスタイル変革を目指す企業のなかには、IT導入が目的になってしまっているケースも見られますが、それではNG。もちろん企業によってこれまでの働き方も業務内容も違いますから、目指すべきワークスタイル変革も異なります。ただ、基本として押さえておきたいのが、安倍内閣が設置した「働き方改革実現推進室」が2016年9月に開催した第1回「働き方改革実現会議」で挙げた下記9つの項目です。
・同一労働同一賃金などの非正規雇用の処遇改善
・賃金引き上げと労働生産性の向上
・時間外労働の上限規制のあり方など長時間労働の是正
・雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定させない教育の問題
・テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
・働き方に中立的な社会保険制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
・高齢者の就業促進
・病気の治療、子育て・介護と仕事の両立
・外国人材の受け入れ問題
この中でも特に注目されているのが、「長時間労働の是正」「テレワークなど柔軟な働き方」の2つ。長時間労働がなくなり、時短勤務や在宅勤務などを含めた柔軟な働き方が可能になれば、「女性・若者が活躍しやすい環境整備」や「病気の治療、子育て・介護と仕事の両立」の実現にもつながるでしょう。 こういった目的の達成にはIT導入が必要なこともありますが、それだけで終わるのではなく、結果として「長時間労働が削減できたか」「柔軟な働き方が実現できているか」など、本来の目的を達成できているかを意識することが重要です。
ワークスタイル変革を阻む3つのハードル
いざワークスタイル変革を進めようとしても、これまでの働き方が大きく変わることに抵抗がある人も多く、一筋縄ではいきません。ワークスタイル変革の取り組みにおいて3つのハードルが挙げられます。
社内意識
特に時間外労働(残業)削減を進めるにあたっては「周りが残業しているから帰りにくい」「長時間働いている人が評価される」といった雰囲気は大きなハードルになります。こういった社員の意識を変えるのは難しいところでもありますが、できる人から意識を変えていく、トップからメッセージを発信してもらうなど、段階的かつ継続的に取り組む必要があります。
社内ルール
人事評価や就業ルール、勤務体系などが従来のままでは、ワークスタイル変革には限度があります。労働を量ではなく質で評価する仕組みや、柔軟な勤務体系など制度の変更は不可欠です。
設備、環境
たとえテレワークの制度を作っても、利用できる環境がなければ意味がありません。セキュリティなどに配慮したICTツールが必要になりますが、場合によっては高額な投資が必要になるケースもあります。
「テレワーク」はワークスタイル変革の切り札となるか
目的の1つとしても挙がっていた「テレワーク」は、ワークスタイル変革とセットで語られる機会も多く見られます。テレワークというと在宅勤務のイメージがありますが、自宅に限らず、移動中など“オフィスの外”で仕事をすること全般を指します。いつでもどこでも同じように仕事ができる環境を整えることによって、隙間時間の有効活用や、多様な働き方が可能になる、というわけです。
確かに「必ずオフィスに寄らなければならない」という制約がなくなれば、効率的かつ柔軟な働き方が可能になります。長時間労働削減にもつながりますし、同時に、副業や兼業といった新たなワークスタイルや、病気の治療・子育て・介護などと仕事の両立もしやすくなるでしょう。ワークスタイル変革のさまざまな目的に有効な“切り札”としてテレワークが注目されています。
テレワークを実現する4つのアプローチ
テレワークの実現にはITの活用が有効ですが、具体的にはどのような方法があるのでしょうか?実現方法は導入のレベルや規模によってさまざま。ここでは4つのアプローチを紹介します。
コミュニケーション
離れた場所にいる社員同士のコミュニケーションをサポートするのが、チャット、Web会議、SNS、グループウェアといったツールです。なかでも最近注目されているのがチャット。コンシューマ向けツールの普及とともに、メールとは違ったリアルタイムなやり取りができると、導入企業が増えています。
情報セキュリティの確保
PCを持ち出したり、自宅で利用するといった場合に懸念されるのがセキュリティ。この課題の解決策としてはリモートデスクトップや仮想デスクトップが挙げられます。どちらもPCのデータは社内・自社サーバ上に保管したまま、持ち出したデバイスからアクセスするため、情報漏えいを防ぎます。
労務管理
テレワークを進める際に気をつけたいのが労務管理です。社外で仕事を進めていても、もちろん勤怠管理は必須。自宅だからといって、ズルズルとサービス残業してしまうことも懸念されます。クラウドで社外からでも出勤・退勤を打刻できる勤怠管理サービスなどもあるので、うまく活用しましょう。
生産性向上
各種申請や承認などの業務を、紙ベースでおこなっている場合、どうしてもそのためにオフィスに戻らなければなりません。こういった業務もワークフローでシステム化すれば、外出先からでも申請や承認が可能に。さらに、フローの進捗状況も見える化でき、生産性向上・業務効率化にもつながります。
「まずはチャットツールから」「一気に仮想デスクトップを導入」など企業によって採用するアプローチは違うもの。自社の“働き方”や目的にあったアプローチをとることをお勧めします。
声をかけるだけではNG!残業削減で懸念される“弊害”
従業員の時間外労働を削減…といっても、単純に「残業を減らすように」と声をかけるような対応だけでは十分とは言えません。
業務量が変わらないまま勤務時間だけを減らそうとすると、「サービス残業」や「持ち帰り残業」につながります。これでは本末転倒ですし、業務に利用するデータを勝手に持ち出すことは情報漏えいなどの事故の原因に。また、残業代が減ることによる実質的な給与減や、モチベーション低下も懸念されます。 そもそも、今回の法案に対応するだけでは、36協定の対象となる若手社員の残業時間が減る一方で、管理職は残業時間の上限がないうえに、若手社員の管理や業務調整をこれまで以上に求められることになり、業務量や負担が大きく増えてしまうケースも…!